日経コラム 第9回 2005年8月28日
家電の原点である電球は、街を明るく灯しただけでなく、人々の心の中に「幸せ」の明かりを灯しました。
そして20世紀、家庭生活が革新し続ける中、家電の役割も常に進化してきました。それは単なる機能を提供したのではなく、安心・安全・便利・快適に関わる小さな「幸せ」を1人ひとりの生活に灯してきたのではないかと私は思っています。
20世紀半ばまでの家電は、電球の「明るくする」、アイロンやコンロの「温める」、ラジオの「聴く(聴かせる)」という役割が主で、家電元年といわれる1953年以降に、洗濯機や掃除機の「人に代わって働く」、テレビの「見る(映す)」、エアコンの「冷やす(空調を整える)」といった役割が加わり発展してきました。
この間、関西からも数多くの製品が誕生しました。ラジオ、乾電池、洗濯機、テレビ、電子レンジ、ホームベーカリーは関西企業が世に送り出した製品です。
次なる快適な暮らしの実現に向けて、人の生活がある限り家電は進化し続けます。とりわけ、「家庭で電気をつくる」、「美しさと健康の維持を助ける」、「年齢に関係なく行動するために身体をアシストする」、「いつの時も安全に見守る」、「個々人の創造性発揮をサポートする」などは、今後の家電の役割となるでしょう。
また、これまでの家電は、家事の効率化で自由時間の量を拡大し、女性の社会進出や娯楽の創出を促してきたと言われますが、これからは時間の質、すなわち、安心・安全・便利・快適に関する心の満足度そのものがますます問われてくるようになるでしょう。
私たちを取り巻く社会課題は深刻さを増すばかりです。
少子高齢化や安全神話の崩壊で悩むわが国、水不足や電力不足で苦慮する発展途上国、食糧問題や環境問題をはじめとする世界の課題などです。これらは一足飛びに解決できるものではありませんが、大事なのはもっとも身近な私たちの生活でそれらの一つ一つを考えていくことではないでしょうか。
今回で終了となる私のコラム~『未来の暮らし 半チャンネルひねれば』では、大阪の真髄である「楽しさと実利」の視点で、生活と家電の小さな革新を考えてきました。しかし、もっと楽しく、もっと実のある革新の芽はみなさんの中にこそ眠っているのではないかと思います。
多くの家電は世界中で使われています。国によって若干の違いはあっても、家電はグローバルスタンダードの生活道具なのです。関西から世界に向けて、関西の遺伝子である「楽しさと実利」の新しい生活スタンダードの風をみなさんとともに吹かせることができたら、こんなに嬉しいことはありません。
2ヶ月間、お読みいただき、ありがとうございました。