08. コンビニのような冷蔵庫

日経コラム 第8回 2005年8月21日

 近頃、食材の産地情報や生産者の顔写真などを掲示している生鮮食料品売り場をよく見かけます。農薬や添加物の使用、遺伝子組み換えの有無、供給者の信頼性に関することなど、食の安全に対し意識が高まってきたことの表れです。実は、食を取り巻くトレンドはいつの世でも時代を先取りしてきました。

 1860年代、西洋料理は文明開化の象徴として、上流階級の人々の間で広まり始めました。普通の人々が外食で西洋料理を楽しめるようになったのは1910年代以降ですが、これは今で言う「グローバル化」のさきがけです。

 1953年には東京・青山に初のスーパーが開店し、気候や天候に左右されないビニールハウスによる生産やインスタント食品の登場で、1960年代に食は「大量生産・消費」時代を迎えます。

 その後、工業化による都市の環境悪化が問題となり、食品公害にまで発展したことで、食の「健康・安全」に関する懸念が徐々に広がり始め、今でも最大の関心事となっています。生活に一番身近な食だからこそ、生活者は「グローバル化」「大量生産・消費」「健康・安全」といったトレンドをいち早く実感できたのでしょう。

 では、これからの生活事情を踏まえ、食とそれに関わる家電はどのようになっていくのでしょうか。

 ここで、大阪らしい『楽しさと実利』の視点で、これからの食と家電を半チャンネルひねってみたいと思います。例えば、キッチンの大黒柱である冷蔵庫をひねってみるとどうなるか…。

 共働き世帯や1人暮らしの女性世帯の増加で、家が留守となる時間は増え、家事の時間は減ってきています。これに伴い、食材やいわゆる中食のデリバリーサービスの利用は拡大傾向です。加えて、個人ごとの栄養管理や味付けもニーズが高まっています。

 こんな現状から考えると、冷蔵庫は食材の保存だけでなく、受け取りや健康管理までを担うべきではないでしょうか。

 配達される食材を受け取るために、冷蔵庫は玄関にも必要です。届け人の信頼性を確認する仕組みを持ち、24時間の受け取りが可能で、冷凍、冷蔵、保温など条件がまちまちな食材に対応できる機能が求められます。

 注文した食材の生産環境や成分の安全性は、モバイル(携帯電話など)でいつでも確認でき、食材に応じた調理方法や健康ノウハウ情報を入手できることも欠かせません。

 さらに、よく利用する飲料水などは注文せずとも玄関冷蔵庫に常備されていて、必要な時に取り出し購入できると、帰宅の遅い方や1人暮らしの方には便利です。富山の薬売りのようなイメージでしょうか。そう、ここまできたら、自分だけのコンビニがお家にあるように感じてきませんか。

 これからは様々な分野で「あなただけ」のサービスが高まってくることと思います。「健康・安全」を保障しつつ、「あなただけ」のライフスタイルに応じた食の快適を実現するような冷蔵庫…。

 いつの日か、あなたのお家の玄関に「あなただけ」のコンビニが誕生する日が来るかもしれません。