04. 新しい楽しみをつくる手のひらテレビ

日経コラム 第4回 2005年7月24日

 力道山の世界選手権試合が街頭でテレビ放送されたのは1954年。大勢の人々が1台のテレビに釘付けになりました。

 当時の白黒テレビはとても高価で、公務員の初任給の約30倍もの値段でしたが、『三種の神器』のひとつとされ、1960年頃から一般家庭へと浸透していきます。カラーテレビは1957年、テープでテレビ番組を録画できるVTRは1976年に登場。この頃になると、テレビの世帯普及率が100%近くまで達し、テレビは1部屋に1台の時代へと移り変わります。

 そして現在。家庭でのテレビは薄型・大画面が主流となりましたが、テレビ視聴が可能な携帯電話がでてきたことを鑑みると、テレビは確実に私たちとの距離を縮めてきたと言えます。

 すなわち、「街頭テレビ」→「一家に1台テレビ」→「1部屋に1台テレビ」→「1人に1台のテレビ/手のひらにテレビ」へとこの50年間で進化してきたのです。

 テレビ放送サービスも多様になり、映画やアニメ、スポーツなどの番組を契約して視聴するスタイルも定着してきましたが、これは契約の単位が基本的には個人なので、個人化である「1人に1台のテレビ/手のひらにテレビ」への流れと相関しています。

 では、これからのテレビはどのように進化するのでしょうか。手のひらのテレビ端末による番組視聴が増えたとしても、そんな小さな画面では迫力映像を満喫できませんよね・・・。

 そこで、大阪らしい『楽しさと実利』の視点で、これからのテレビを半チャンネルひねってみたいと思います。
 
 テレビの機能を極めて単純に分解すると、映像を表示する「ディスプレイ部」と番組を受信する「チューナー部」に分けることができます。これを切り離して考えてみましょう。そう、大きな画面の「ディスプレイ部」は家に、多彩な番組を受信する「チューナー部」は手のひらに・・・です。

 例えば、家のリビングの壁一面が「ディスプレイ部」となり、家族3人がそれぞれでテレビを観る場合は、その人に一番近いところの壁にそれぞれのテレビ画面が表示されます(手のひらの「チューナー部」から壁に番組映像を送り出しているのです)。個室に移っても、同じように手のひらから壁などのディスプレイ部にテレビ番組を表示。移動時は手のひらの小さな画面で番組の続きを観て、旅行先のホテルでは、客室のディスプレイを利用して自分の契約する放送番組・コンテンツなどをいつでも観ることができます。

 また、手のひらの「チューナー部」にVTRのような録画機能を加えると、保存したコンテンツも放送番組同様、いつでも・どこでも楽しむことができるようになるはずです。ここまでくると、あなたの手のひらが放送局のように感じてきませんか。

 携帯電話のような、リモコンのような、パーソナルなビデオサーバーのような、そんな『手のひらテレビ』が誕生したら、世界の放送番組やコンテンツにあなたの手のひらからチューニングし、あなた自身が世界への放送局なっていくような、そんな夢がいつの日にか実現するかもしれませんね。