02. 携帯で電車もさらに便利に

日経コラム 第2回 2005年7月10日

 時刻通りに電車が来ないと人は5分でイライラするそうです。今では当たり前になった女性専用車両も混雑する時間帯など時間を区切って運用されていますが、出張の多い私は、うっかり乗り込んで赤面することたびたびです。現代の生活は、精密機械のような正確さと細分化を目指しているように思えます。

 都市の人口増加に伴い、「大量・短時間・安全」に人々が移動できるよう、交通機関では高度なダイヤグラムがつくられています。1895年、京都で路面電車が開業。1909年に今の山手線が開通し、東京オリンピックの開幕9日前(1964年)には、東海道新幹線が時速210キロで疾走を始めました。

 飛行機も同様ですが、座席予約にはコンピューターが導入され、時間やサービスを管理するためのIT(情報技術)で、サービス向上が図られてきたと思います。今の精密な時刻表は「サービス向上のシンボル」であると同時に、現代社会の「過密さのシンボル」のように見えてきます。

 しかし、高度な運行システムを駆使して、このまま「過密さ」を追求してよいのでしょうか? 過密さのあまりその限界を超えてしまうと、逆に一番大切な安全性への不安が生まれてくるのではないでしょうか? ITをもっと違う側面で活かせないのでしょうか?

 ここで、大阪らしい『楽しさと実利』の視点で、これからの時刻表を半チャンネルひねって見ましょう。

 そう、もしも時刻表がなかったら・・・。時刻表に人々があわせるのではなく、人々の移動状況に応じて時刻表が生まれてくるような新しい運用はいかがでしょう。

 例えば、私たちの持つ携帯電話(モバイル)は、現在位置の確認や行き先へのナビゲーション提供などができるようになりました。このモバイルが人々の行き先や移動状況を駅に伝えることができれば、最適な時間に必要な電車がやってくることも可能かもしれません。大人数の時は12車両、少人数の時は1車両という具合です。もちろん、電車が来る時刻はモバイルへお知らせします。

 また、モバイルを通じて個人のことがわかるので、ある時はベビーカー専用車両、ある時はみんなでワイワイできる行楽車両、野球ファン専用車両など、乗車する個人にピッタリの新しい電車も可能になるかもしれません。効率向上と質の向上の両立です。

 「そんなことができるわけない!」と思われるかもしれませんが、高知県中村市の市営バスは、希望乗車時間と停留所名を予約で受け付けて運行する「オンデマンドシステム」を導入しています。また、自分が乗りたいバスの運行情報をモバイルで確認できるサービスを「東急バスナビ」が実施しています。電車の事例ではありませんが、ここに快適な暮らし方のヒントが隠されているように思います。

 ユビキタスネットワーク社会はひとりひとりが主役となる社会です。みなさんもユニークな視点で未来の時刻表に思いをめぐらしてみてはいかがでしょうか?